読書の記録『「おじさん」的思考』

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読書の記録


「おじさん」的思考

内田樹, , 2011-10-25, ***--

人間の欲望が照準するのは、モノやヒトではなく、「他者の欲望」である。
「人格はひとつ」なんて、誰が決めたのだ。私はパーソナリティの発達過程とは、人格の多重化のプロセスである、というふうに考えている。
私は匿名で発信する人間が大嫌いだけど、それは「卑怯」とかそういうレヴェルの問題ではなく、「本名の自分」というものが純粋でリアルなものとしてどこかに存在している、と信じているその人の妄想のありかたが気持ち悪いからである。
そのつどつねに「死に臨んで悔いがない」状態、それを私は「幸福」と呼びたいと思う。幸福な人とは、快楽とは「いつか終わる」ものだということを知っていて、だからこそ、「終わり」までのすべての瞬間をていねいに生きる人のことである、そう私は思う。
ある種の爆発的な政治運動を駆動するのは、綱領の整合性でも、政治課題の立て方の正しさでもない。不意に時代に取り憑く、ある種の「気分」である。その「気分」のメカニズムを理解したものは政治的に影響力を行使できる。
sauve qui peut(ソーヴ・キ・プ, 生き延びることができるものは、生き延びよ)
哲学は何か「答え」を提供するものではなく、「答えがうまく出ない問い」を取り扱うための技法である。
「知性」というのは、簡単にいえば「マッピング」する能力である。「自分が何を知らないのか」を言うことができ、必要なデータとスキルが「どこにいって、どのような手順をふめば手に入るか」を知っている、というのが「知性」のはたらきである。