読書の記録『こまった人』

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読書の記録


こまった人

養老孟司, , 2005-12-31, ***--

意識とは秩序正しい活動である。無秩序な意識などというものはない。意識が秩序的活動であるなら、それはどこかに無秩序を生み出しているはずである。
それでも「自分に合った」仕事などと、ふざけたことをぬかしたら、仕事はテメーのためにあるんじゃない、世の中に必要だから存在しているんだ、と怒鳴りつけるくらいの気持ちはあってもいいんじゃないか。
般若心経は無と空を説く。これはじつはゼロと1で、つまりコンピュータの基礎なんですよ。
万人につねに正直であれというのは、論理的には成立しない。なぜなら人間は生物だからである。生物は進化する。仮に全員が正直者である社会ができているとしよう。そこにウソツキの遺伝子が突然変異で発生したとする。一人だけのウソツキは大いに得をする。皆がウソツキのいうことを信用するからである。詐欺師の理想郷である。したがってこの遺伝子は急速に普及する。あとは説明の必要はないであろう。最終的にはどうなるか。いまのような社会ができる。
乱暴に言うなら、中国人が日本人というときに、ア・日本人と、ザ・日本人の区別がもともとない。これはじつは困ったことにもなりうる。個々のケースが、全体とみなされやすいということをも意味するからである。中国語の世界が、なにか具体性を欠くという印象があるのは、背後に言葉の問題が隠れている可能性があろう。
何かを他人のせいにして、それで自分の人生がうまくいくわけではないことは、大人ならたいていの人が知っていることであろう。